【書評】乾くるみ『イニシエーション・ラブ」

乾くるみの『イニシエーション・ラブ』を読んだので、感想を書きました。微妙にネタバレしているので、未読の人は絶対に読まないでね。

よくよく考えてみると、すごい小説でした。

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

所感

さて、本作ですが、結構前から作品自体は知っていました。でも絶対読んだら後悔する奴だと思って読んでいませんでした。

なにせ、煽り文句は

「必ず二回読みたくなる」

 ですから。

こういう小説は、読み終わったあと必ず「そんなん知るかよ」と言いたくなりますからね。まあ、アマゾンレビューを見た感じでも賛否が入り乱れていました。おそらく、半分くらいの人は「なんやこれ、つまんな」と思い、半分くらいの人は「くそおもろいやんけ」と思ったのではないでしょうか。

かくいう僕が読み終わった所感は「おっおう...」って感じでした。それから、「ああなるほどねえ」と思い、最終的に乾くるみと編集者にひどく感心してしまいました。

本校ではなぜそれほど、感心してしまったかについて書いてみたいと思います。

小説のトリック

まず、この小説のトリックについて簡単に説明しておきます。この小説はA面とB面の二部構成になっています。A面ではマユとたっくんが合コンで出会って付き合っていく物語で、B面はマユとたっくんが遠距離恋愛を始めてから別れるまでの物語です。

小説の最後のページでA面のたっくんとB面のたっくんは別の人物ということが明かされます。A面とB面は同時期の話で、マユが二股を掛けていたというのが落ちになります。

だからなに?

さて、読み終わった瞬間に「めっちゃ面白かったー」ってなる人は結構幸せな人で、殆どの人が「はあ」みたいな感じだったと思います。僕もそうでした。

なぜそう感じるかというと、この『イニシエーション・ラブ』という小説は、最後のページまでひたすらに退屈な小説だからです。

恋愛小説なのにドラマチックな展開もありません。「必ず二度読みたくなる」という煽り文句がなければ、とてもじゃないけど読み切ることができなかったでしょう。

しかし、それゆえにこの小説は凄いのです!

なぜこの小説はつまらないのか

この小説は、敢えてそれをやっているということが凄い。乾くるみは狙って小説をつまらなく書いています。乾くるみなら、いくらでもドラマチックに面白くかけるはずなのにです。

何故か。『イニシエーション・ラブ』は、読者が「二回読む」ことを前提としているからです。読者が2周することによって、本作は初めてミステリー小説として意味のあるものになります。「二回読ませる」ためにはどうしたら良いかを考えられて作られてるのです。

『イニシエーション・ラブ』は、ミステリー小説にもかかわらず、謎が提示されるのが、最後のページになっています。これは明らかに他のミステリーと異なります。普通のミステリー小説であれば、謎は序盤から中盤に掛けて提示されるものです。

ミステリーの根幹である謎が最後のページに提示されるから、本作は読んでいてつまらない。しかし、もともと二回読むと考えるとミステリーの提示の場所は、ちょうど中間地点ということになります。

更に言うと、二回読んでほしいから、乾くるみは敢えてつまらなく書いています。退屈で読みやすい文章というのは、簡単に読み飛ばしてしまうからです。読者はこの小説を読んでる間ずっと最後のページまでたどり着きたくてしょうがないはずです。1周目は、飛ばし読みでよく、2周目に謎解きをさせるという戦略をとっています。

戦略

この戦略はひどく挑発的です。帯に

「必ず二回読みたくなる」

 と書いてあるだけで、読者は最後まで読むという確信がないとこの『イニシエーション・ラブ』という小説は成り立たないのであり、それができることが凄まじい...!