年末に書くのを忘れていました。2023年に読んで面白かった本を3冊ほど布教します。 2023年に私が読んだ本なので、去年刊行された本ではありません。
昨年はSF, ファンタジー小説を読むことが多かったようです。 去年は本当に色々なことがあったので、気分転換にこれらの本には大変助けられました。
『箱庭の巡礼者たち』 恒川光太郎
「2023年に1番面白かった本は?」と聞かれたら恒川光太郎の『箱庭の巡礼者たち』を選びます。 恒川は、妖怪たちが開催する夜市を描いた『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞し、デビューした作家です。
本作は、主人公の少年が謎めいた箱を見つけるところから始まります。 その箱の中には、小人たちが暮らす箱庭の世界が広がっていました。この不思議な箱と箱庭の世界を巡って様々な物語が語られてきます。
恒川は描くのは、『ナルニア国物語』のような伝統的なファンタジーとは違い、「行きて帰りし物語」ではありません。
どちらかといえば、奇想天外な妖怪の世界に入っていき、そこでそのままともに生きていく物語です。 西洋ファンタジーや異世界モノとは違った独特な世界にぜひ浸ってみてほしいです。
『天冥の標』 小川一水
次に紹介するのは、2009年に刊行され2019年に完結した全17冊のSF巨編『天冥の標』です。2020年に日本SF大賞と星雲賞をダブル受賞しました。
コロナ禍に完結した本作は、まるでそのパニックを描くような伝染病のパンデミックから始まります。 しかしそのパンデミックは、この長大なスペース・オペラの始まりにすぎません。
何千年もの歴史を辿りながら、紡がれてきた憎悪と差別、友情と性愛、人類と地球外知的生命体を描き出します。
本作は小松左京の『果しなき流れの果に』のような時間的、歴史的スケールでありながら、ライトノベルのような活き活きとした個性的なキャラクターが活躍します。 このミックスインが非常に鮮やかで、魅力的です。
『哲学の誕生』 納富信留
続いては、日本において古代ギリシア哲学の第一人者である納富信留の『哲学の誕生』です。
古代ギリシアのソクラテスは一般に西洋哲学の祖として知られています。しかし、ソクラテスは実際にはかなり謎に満ちた人物です。 彼は一冊の書物も書いておらず、実のところその半生の殆どが知られていません。
では、ソクラテスは一体どのような哲学を持っていたのか、そしてなぜ後世の人々は彼を西洋哲学の祖としたのか。
本書はこの哲学史上、長く議論されてきたミステリアスな謎に迫っていきます。 納富はソクラテスの時代と彼と同時代に生きた人々を追いながら、今までの我々の理解とはことなる新たなソクラテス像を描き出します。
本書を読んで、今まで考えていた私のソクラテス像が見事に覆されました。とても刺激的で面白い内容です。
近年はSFやファンタジー小説を主として読んできましたが、今年は少し古典作品や海外文学を読んでいこうかなと思います。 おすすめもお待ちしています。