2022年面白かった本ベスト3

まもなく師走ということで、今年読んだ本を振り返って個人的に面白かったベスト3を紹介していく(師走は忙しいので絶対に書けない)。なお、2022年に読んだのであって出版された年とは関係ない。 ニートをしていたこともあり、本やドラマ、Youtubeなどに時間を消費していた…

読んだ本の傾向としては、技術書と紀行文が結構な割合を占めていた。順位をつけようと思ったが、ジャンルが違いすぎて順位付けが無理だったので並列に紹介する。

プロジェクト・ヘイル・メアリー

大本命。今年もっとも注目されたSF小説だろう。作者は『火星の人』で世界的大ヒットを飛ばしたアンディ・ウィアー。自身のウェブサイトで連載していた小説が、あれよあれよという間に映画化もされている。もし未読なら『火星の人』から読んでみてほしい。火星に残された男の生活を生物学や農学の知識をふんだんに織り交ぜながら、ユーモラスに語っている。

まず断言するが、本作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、『火星の人』を軽々と超える傑作である。テッド・チャンの『あなたの人生の物語』やJ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』と比べても、なんら遜色のない、むしろその2つを混ぜ合わせたようなハードSFに仕上がっている。それでいて、彼の作風である皮肉屋でユーモラスな文章は健在だ。SFのハードな部分と見事に融和されている。

謎の密閉空間で記憶を失った主人公が目覚めるところから物語は始まる。なぜ1人でこんな場所にいるのかさっぱりわからない。彼は室内にあるものと基礎的な科学実験を通して、自分がたった独り宇宙船に取り残されていることを悟る。何のために宇宙船に乗ったのか、この宇宙船はどこに向かっているのか。どこまでも科学的根拠を求めながら、過去の記憶を取り戻していく。そして、孤独な宇宙で主人公は衝撃の事態に遭遇するのである。

本作は単なる宇宙冒険譚ではないし、おもしろい未来技術があるわけでもない。他の優れたSFと同様に現代社会とは異なるコードが存在する空間を語ることによって、現代を描き出している。

ハンニバル戦記——ローマ人の物語

2つ目は塩野七生の『ローマ人の物語』シリーズの第2巻ハンニバル戦記である。累計発行部数1000万を超える大ヒットシリーズだ。私はイタリア3ヶ月滞在記念に全巻読んだ。

まず、驚くべきは参考文献や史料の多さである。歴史学者の本を読んでいるかのようである。もちろんこれは歴史小説であることに注意が必要だが、それを抜きにしても類稀なる熱量だ。

本シリーズは、ローマ帝国の誕生と滅亡までを語る全15巻である。全体としては「なぜローマがこれほどまでに栄華を極め、そして滅びたのか」を主題として物語が進行していく。全15巻のハイライト中のハイライトが第2巻「ハンニバル戦記」だ。

本巻は主に共和政ローマとカルタゴの間に起こった100年以上に及ぶポエニ戦争(第1次〜3次)を描く。兎にも角にもこの戦いが熱い。父が果たせなかった打倒ローマの意思を引き継ぎ、たった1人で最強ローマを震撼させた稀代の名将・ハンニバル。一方、ハンニバルとの戦いで父を失った若き天才・スキピオの親子二代に渡る戦いが本当に熱いのである。

なぜハンニバルは僅かな勢力でローマ軍を次々と打ち破ることができたのか。そしてその名将とスキピオは如何にして戦い、なぜ勝利を収めることができたのか。アレクサンドロス大王から受け継がれ、進化してきた戦術・戦略のハイライトでもある。

『ローマ人の物語』を全巻読むのはかなりしんどいのであまりお勧めはしない。しかし、この第2巻だけでも読むべきである。巻ごとに割と独立しているので単独で読んでも良いし、より深く楽しみたければ、1巻から読んでも良いと思う。

疾風怒濤精神分析入門 ジャック・ラカン的生き方のススメ

3つ目は悩んだのだが毛色を少し変えて、竹岡一竹『疾風怒濤精神分析入門』を紹介する。なにやら、ラノベ風の装丁とタイトルであるが、しっかりとしたジャック・ラカンおよび精神分析の入門書である。著者は出版当時、なんとまだ早稲田大学の博士課程在籍中だったのだから驚きだ。

ジャック・ラカンは西洋哲学に興味のある人ならよく聞く名前である。フロイトの系譜を受け継ぎ、精神分析を発展させた精神分析家である。ラカンの理論は精神分析の分野に留まらず、哲学や芸術など幅広く影響を与えた。しかし、ラカンと言えば難解かつ、その叙述は数学的記号であふれ、さらにその扱い方は非常に不正確である。

ソーカル事件後の現代では精神分析は大変怪しいものとして捉えられているように思う(現に私もそう感じていた)。本書は精神医学や心理学、カウンセリングと精神分析の何が違うのかをしっかりと説明した上でラカンの理論を追ってくれる。これが非常に面白い。

実際に精神分析が何を目的におこなわれ、どのように進行してくかを解説してくれる本はなかなかないだろう。もし精神分析を「患者の悩みを解決するものである」とか「過去のトラウマを見つけるものだ」と思っているのであれば、ぜひ本書を読んでほしい。そこには全く違った風景が視えるはずだ。