『指輪物語 』の歴史についてまとめた

今回、『指輪物語』では詳しく描かれなかった中つ国やその世界の歴史についてまとめた。 後述する内容を知ってから『ホビットの冒険』や『指輪物語』を読んだり、観て欲しい。また違った楽しみを見出すことができると思う。 以下では、トールキンが『指輪物語』や『ホビットの冒険』等で描いた世界をトールキンの世界と呼ぶことにしたい。

歴史区分

トールキンの世界では、いくつかの歴史区分が存在している。古い順に行くと

  • 世界創造
  • 灯火の時代
  • 二本の木の時代
  • 太陽の時代(第一紀~第四紀)

トールキンの世界は、架空の別世界ではなく、現在の歴史のある期間の出来事だ。
太陽の時代は人間が生まれた時代である。大きく分けて第一紀から第四紀までの4つの歴史区分が存在する。
指輪物語は第三紀末の物語だ。フロドたちの冒険によって太陽の時代の第三紀が終焉し、第四紀が始まる。
(これ以降、第x紀と言うときは、太陽の時代の第x紀である)

地理区分

トールキンの世界には様々な種族が存在し、様々な土地がある。まず大まかに地理を把握しておきたい。世界には宇宙とその外側(創造主がいる)があり、さらに宇宙の中に地球(アルダと呼ばれる)が存在する。地上には主に三つの大陸が存在する。

中つ国

指輪物語の舞台となる大陸である。中つ国は地球の中央にある主要な大陸の一つである。

アマン

アマンは地上を治める聖霊的な存在である「ヴァラール」が住んでいる地だ。イメージ的には神々や天使が住む土地と理解しておけば良いと思う。後にエルフたちもアマンに移住することとなる。『指輪物語』の最後にエルフやガンダルフと共にフロドが船で旅だったのもアマンである。

ヌーメノール

ヌーメノールはアマンと中つ国の間に存在する島である。
ヌーメノールは太陽の第二紀に王が掟を破り、アマンに侵入したため神の怒りを買い、海中に没してしまった。

指輪物語の種族

上記に見てきた世界の区分と『指輪物語』の重要な登場人物や種族を照らし合わせてみたい。実際には猛烈に細かいが、あまり気にせずざっくりまとめていく。

唯一神 エル・イルーヴァタール

トールキンの世界を作ったとされるのはエル・イルーヴァタールと呼ばれる神である。

アイヌア

唯一神によって作られた最初の種族。世界の外側に住んでいたが、後述するように地上に降りて、アマンに住んだ者もいた。(ヴァラールとマイアール)

ヴァラール
ヴァラールは、唯一神に最初に作られた種族(アイアヌ)である。地上に降ったアイアヌの中で力のあった15名がヴァラールと呼ばれた。そのうち最も偉大だったのはサウロンが仕えた初代冥王モルゴスである。(後述)

マイアール
地上に降ったアイアヌの中でヴァラール以外のアイアヌ。基本的にはヴァラールより力が弱く、ヴァラールの臣下である。『指輪物語』の登場人物では、指輪の製作者である冥王サウロンおよびガンダルフやサルマンなどの魔法使いたちがマイアールである。
ガンダルフは力ではサルマンに劣るものの、マイアールの中で最も賢いものとされた。魔法使いたちはサウロンに対抗するために中つ国に送り込まれた。

エルフ

エルフは、中つ国で唯一神によって最初に生み出された種族である。エルフは寿命を持たず、外傷によってのみ死ぬ。美しく、強靭で中つ国で最も優れた種族と言われている。

『指輪物語』の登場人物としては、フロド共に旅をした弓の名人レゴラスや森の奥方と呼ばれるガラドリエルがいる。 レゴラスは、エルフの種族のうち中つ国に残った比較的くらいの低いエルフである。一方、ガラドリエルはアマンから戻った比較的くらいの高い種族である。

半エルフ

エルフと人間の血を引く者たち。厳密な意味では歴史上に4人の半エルフが存在するが、『指輪物語』に出てくる半エルフは裂け谷の主人エルロンドだけである。なお、半エルフの血脈は存続しており、『指輪物語』の主要人物であるアラゴルンの先祖はエルロンドの双子の兄弟のエルロスである。

エルロンドはエルフとしての運命を受け入れ、エルロスは人間としての運命を受け入れたため、エルロンドに寿命はなくエルロスはすでに亡くなっている。
また、アラゴルンはエルロンドの娘アルウェンと婚姻するので何千年の時を経て二つの半エルフの家系が再び一つになった。

人間

中つ国において、エルフの次に生まれた種族。エルフとは違い寿命がある。『指輪物語』では、アラゴルンやボロミアなどが人間である。ホビットも人間の一氏族であると考えられている。

指輪物語の歴史的位置づけ

以上が前提となり、ようやく指輪物語の歴史的意味合いを概説することができる。
上述したように、『指輪物語』は太陽の時代の第三紀の末の物語である。それまで中つ国の歴史はどのような道を辿ってきたのだろうか。
太陽の時代の第一紀以前、地上最大の敵はサウロンではなく、モルゴスであった。

モルゴスとの戦い(灯火の時代〜第一紀)

モルゴスは、唯一神エル・イルーヴァタールが作った最初の種族アイアヌの中で最も力のある存在だった。モルゴスは、冥王サウロンの前の初代冥王であり、サウロンはモルゴスの臣下の1人である。

モルゴスはその強大な力により、「灯火の時代」を終焉させ「二本の木の時代」において中つ国を支配した。
しかし、太陽の時代の第一紀において、エルフ、人間、さらに西方に住む神々ヴァラールたちとの戦いに敗れ、地上から追放された。

この際、ヴァラールたちに援助を求めたのがエルロンドの父であり、アラゴルンの祖先にあたる半エルフのエアレンディルである。
この時代、ヴァラールたちと共に戦った人間たちにヌーメノール島が与えられた。このヌーメノールの王がエアレンディルの息子エルロスであった。
(エルロスは半エルフとして人間の運命を引き受け、兄弟のエルロンドはエルフとして生きることを選んだ)

モルゴスの追放と共に太陽の第一紀が終わり第二紀になる。

サウロンとの戦い(第二紀)

サウロンは、元々ガンダルフやサルマンと同じアイマールに属していたが、その中でも強大な力を持つ者だった。サウロンは初代冥王モルゴスに加担し、モルゴスの臣下の中で最高位となった。

モルゴスが敗れた後、サウロンは身を隠しつつ中つ国のエルフを騙し「力の指輪」を作らせた。サウロンはエルフたちの技術を盗んだ後、密かに力の指輪を支配する「一つの指輪」を作る。これが、『指輪物語』のあの指輪である。「一つの指輪」を手にしたサウロンはモルゴスを凌駕するほどの力を得たという。しかし、指輪がなければ消滅してしまうという弱点も同時に生まれた。

サウロンは、当時最も強国であったヌーメノールと対峙するが、あっさりと捕虜になってしまう。これは内部から敵を崩すサウロンの策略だった。王はサウロンの奸計にに落ち、ヴァラールによって禁止されているアマンへ侵入してしまう。

アマンへの侵入の結果、唯一神エル・イルーヴァタールによって地球は大変動を起こし、ヌーメノール軍とその島は海底へと沈められてしまう。サウロンも巻き込まれ肉体を失うこととなった。 これにより、それまで平面であった地球は丸くなり、ヴァラールの土地であるアマンへの道は閉ざされてしまう。

中つ国に戻ったサウロンは、人間とエルフの同盟軍と戦うことになる。これが、映画版『ロードオブザリング』の冒頭で流れる、イシルドゥアがサウロンから指輪を奪った戦いである。

この戦いの終結によって太陽の時代の第二紀は終わり、第三紀となる。

そして指輪物語へ(第三紀)

第三紀は、第二紀で倒されながらも指輪を破壊されなかったサウロンが徐々に復活する。第三紀の末期、トールキンによって描かれた『ホビットの冒険』、『指輪物語』の時代に突入する。 イシルドゥアが奪った指輪が巡り巡って『ホビットの冒険』でビルボ・バギンズの手に渡り、『指輪物語』でフロドに受け継がれる。

フロドは、9人の旅の仲間と共に指輪を破壊する旅に出る。フロドによって指輪は破壊され、アラゴルンが王となり、第三紀が終わり第四紀が始まる。

第四紀が始まる前、ガンダルフやビルボ、フロドはエルロンドやガラドリエル、エルフたちと一緒に西方(アマン)へと旅立った。(地球が丸くなった今、アマンへの道を知るのはエルフのみ)

人間の時代(第四紀〜)

アラゴルンが王となった人間たちは大いに繁栄する。 その影で、アラゴルンが世を去る頃にはレゴラスらエルフの種族、ギムリ、サムは西方へと旅立ってしまう。 さらに時代経つとエルフやドワーフ、ホビットは歴史から姿を消し、今現在の人間の歴史へとつながっていくのである。

まとめ

上記のように歴史を俯瞰してみると、『指輪物語』は中つ国の神話の最後の1ページのお話である。神話とは、神々が活躍する世界から人間が繁栄する時代への変換の物語であり、支配者の正統性を示す物語である。そのため、指輪戦争のあらましを実際に知るものは、人間の歴史から排除される。すなわち、フロドたち旅の仲間は中つ国を去らねばならない。

まとめてみた感想

トールキン凄すぎる…というのが第一感である。正直、ここに書いたのはトールキンの設定のほんの一部をかいつまんだに過ぎない。さらに言語学者でもあったトールキンは。この歴史を全てオリジナルの言語と共に作り上げている。本当に恐ろしい。

エルロンドやガラドリエルの歴史(数千年生きてるからね)を知ると、ガラドリエルが指輪の誘惑に耐えるシーンやアルウェンがアラゴルンを選ぶシーンなどは実はかなり趣深いものとなる。

なお、Amazonスタジオが「指輪物語」以前の話の映像化の権利を獲得しており、2022年9月からシーズン1が放送される予定である!!