【書評】|平野啓一郎『マチネの終わりに』

平野啓一郎の『マチネの終わりに』を読みました。あらすじ・感想を書きました。

おすすめ度

おすすめ度:3.0点(5.0点満点)

平野啓一郎の小説は『日蝕』以来、二冊目です。正直、あまりの作風の違い戸惑いを覚えました。デビュー作である『日蝕』から『マチネの終わりに』までにどのような変化が作者にあったのかは非常に興味をそそられます。最初から恋愛小説と思って読めば素晴らしい作品です。ただ、僕は『日蝕』を念頭に置いて読んでしまたので、「うーむ」と思うことがありました。

感想

さて、最初に書いたように平野の作品を読むのは『日蝕』以来です。『日蝕』は平野のデビュー作であり、芥川賞受賞作です。当時、最年少での芥川賞受賞だったようです。『日蝕』は中世のキリスト教の神学僧が主人公です。主人公は異教を研究するうちに、錬金術やら両性有具のアンドロギュヌスやらに遭遇していくという物語です。ストーリーだけ聞くとラノベ感満載ですが、文体は漢文調で綿密な描写が特徴です。

本作『マチネの終わりに』は『日蝕』とは打って変わって現代の男女の恋愛小説です。文体も読みやすく、テンポよく進んでいきます。ただ、心理描写は『日蝕』の面影が見え、非常に豊かに描かれています。

この小説で驚いたのはストーリーが恐ろしいほど使い古されたものだと言うことです。

男女が恋に落ちる→障害が様々ある→乗り越える→邪魔をする女が現れる→別れる→再会する

というようにです。恋愛小説やドラマが好きな人であれば、何十回と耳にする展開です。「またか」と思った人もいるのではないでしょうか。

しかし、この在り来たりのプロット故に、平野啓一郎の小説家としての力量を感じました。この小説は平野の文章力なくしては、とてもではないが読み通せないのではないかと思うのです。これほど、単純な物語で多くの読者を得るのは並大抵のことではありません。それはひとえに平野の心理描写の巧みさを物語っています。

本作を読んで、改めて平野啓一郎ってすごい作家だなあと感服してしまいました。