宮古島にいった話

3/31に仕事を辞めて、日本を立つには時間があったので、ひとまず沖縄に行こうと思った。少し休みたかったのだ。
まず、成田から宮古島へと向かった。特に宮古島に行きたいわけではないが、とにかく航空券が安かった。片道8000円である。

宮古島は、車で一周2~3時間ほどの島である。近くに伊良部島や来間島などがありそれらを結ぶ橋は観光名所となっている。石垣島に比べると大分田舎という感じだ。道を走れば、さとうきび畑が広がっている。

泊まったのは、宮古島のゲストハウスだ。市内からは、車で10分くらいのとこにある。日本、特に沖縄のゲストハウスは海外のユースホステルとは、微妙に異なる雰囲気である。

海外のユースホステルはとにかく若者の安宿という感じだ。シャワーがあってベッドがあればそれでok。だが、日本のゲストハウスは独特のおもてなしの雰囲気がある。例えば、沖縄では夕食はみんなで集まってご飯を食べ泡盛を飲むというようなことが毎晩のように行われる。(後で知ったのだが、これはゆんたくと呼ばれる)

これらは、日本の民宿文化と海外のホステル文化が混ざり合った結果なのではないかと僕は思っている。

なので、1人で宮古島のゲストハウスに泊まっていても、それほど孤独という感じはなく東京でリモートワークをしている方がよほど孤独感があったりする。

僕はこの居心地の良いゲストハウスで1週間ほど過ごした。朝は宿泊客と海に潜りに行く。昼ごろに帰ってきて、シャワーを浴びたら昼寝をする。
昼寝をしたら、近くの食堂に宮古蕎麦を食べにいく。戻ってきたら、ハンモックに揺られながら本を読む。
夕食どきになってみんなが帰ってきたら、酒を飲みながらご飯を食べる。
こんなふうにして、宮古島での時は過ぎていった。

さて、出不精で特に観光地を巡りたいという欲求のない人間が1人で宮古島行くとそれは、それは暇である。
初日こそ、バイクで海岸線を走って見たものの、二日目には飽きてしまう。得てして観光とは、そういったものである。

そこで、村上春樹の旅行記を読むことした。旅行中に他人の旅行記を読むというのは、なかなか新鮮で面白い。皆さんもぜひ試してもらいたい。
村上春樹は、文章やインタビューを聞いていると、ハイカルチャーで室内に閉じこもりがちな人を想像するけれど、読んでみるとかなりマッチョな旅ジャンキーである。

宮古島の滞在中、合計で3冊村上の旅行記を読んだが、おすすめは『辺境・近境』だ。1990年代当時の旅行なので、村上が40代の時である。40代にしては、なかなかハードな旅が綴られている。

初期の村上小説は、どこか異国から見た日本という雰囲気がある。僕が思ってるだけかもしれないけど。そんな村上が本当の異国を旅した記録は、なかなか読み応えがある。彼の小説の深いところに流れる国や民族を越えた思いのようなものを感じ取れるだろう。

その文章に触発されて僕もこうして紀行文を書くに至ったのだ。人間の記憶というのは、いとも簡単に忘れさられる。10年ほど前にバックパックを背負って東南アジアやヨーロッパを巡ったことがあるが、その記憶はもう一部しか残っていない。
ましてや、その時何を感じ、考えたかなんてとてもじゃないが思い出せない。そういった意味で旅行記を残しておくのは良いかもしれないと。

スキンダイブ

ゲストハウスで会ったある女の子のことが非常に印象に残っている。多分、彼女と出会った人は、誰しも強烈な印象を植え付けられるんじゃないかと思う。彼女はナオミと言って、チェコ人と日本人のハーフだった。「ナオミ」は、ハーフや帰国子女の女性によく見られる名前である。

最近だと、大阪ナオミや渡辺直美などだろうか。Naomiという名前はそもそも旧約聖書の登場人物からとられている名前だ。なので元々日本で使われていた名前ではない。
定かではないが、谷崎潤一郎の『痴人の愛』で用いられたのが広まったのではないかとされている。

彼女は、短い金髪と広い額、そして我々の偏見として存在する海外の女の子が持っているような天性の明るさを持っていた。

どのように育てられると、あんなにも明るく大胆に生きることができるのだろうと不思議である。おそらく自己肯定感が普通の人より飛び抜けて高いのではないだろうか。
まあ、これだけでも十分に印象的であるのだが、一緒にシュノーケリングに行くとさらに驚くことになる。

シュノーケリングはマスク、シュノーケル、フィンなどを使って水面から海の中をのぞくマリンスポーツである。海中に顔をつけられる人なら誰でもできる敷居の低いスポーツだ。だが、少々物足りないと思うのは僕だけではない。

そんな人々が次にやるのがスキンダイビングだ。スキンダイビングとスキューバダイビングの違いは、ボンベを担ぐか否かである。
スキューバでは、ボンベを担いで深海まで探索することができる。一方、スキンダイビングは言ってみればただの素潜りでどこまで潜れるかは自身の酸素量との戦いだ。このメンタルスポーツ性がスキューバにはない魅力だ。

船でスポットに着くと、彼女はいの一番に海に入っていき、そのまま10mくらいスキンダイブしていった。彼女のダイブは圧巻で、海の中で泳いでいる方が自然に思えるほど優雅にそして深く潜っていく。

見えなくなるほど青い海の底に潜っていき、2~3分帰ってこない。30mくらいは余裕で潜れるみたいだ。僕はそんな彼女の姿に魅了され、スキンダイビングを練習したが、せいぜい5mといったところだった。

彼女は、夜になると手料理をみんなに振る舞い、買ってきたワインを誰よりも飲み、朝になると誰よりも深く潜っていった。

あんな風に生きられたら、良いんだろうなあと海に浮かびながら僕は思うのだった。

良い奴

世の中の男には、良い奴というのが存在する。こういうと女にはいないのか、という話になりそうだけど、僕にはよくわからない。とりあえず、良い奴が存在する、女のことはわからないというのが僕の主張だ。

おそらく確率としては100人に1人程度ではないかと思う。そいういう人はとにかく見返りを求めず親切である。

車がない人がいれば、車で宮古を案内し、帰りにみんなの分の食料を調達し、料理を取り分け、酒を配り、挙句片付けまでやってしまう。
なんとも良い奴だ。これまた、どう育てられればこうなるのか知りたい。

彼は帰り際、料理をしてくれた女性に申し訳なかったからと1000円ほど置いていこうと僕に提案した。そして、「明日からの片付けは頼んだよ」と言い残した。
こんな男にどうやったらなれるんだろう?

彼らのあの親切心、思いやりはきっと身体が勝手に動いてしまうのだ。深く刻み込まれた精神性は身体にこそ宿る。きっと彼らは長年のトレーニングによって親切筋が発達しているに違いない。

僕はこの長期休暇中、肺活量と親切筋を鍛えよう。

 

あと、島で聞くサザンって最高だよなあああ!?