書評|見城徹『たった一人の熱狂』

たった一人の熱狂 (幻冬舎文庫)

見城徹『たった一人の熱狂』を読んだので、内容と感想をまとめました。学生には就活する前にこの本を読めと言いたいです。

作者・作品紹介

見城徹は日本有数の出版社、幻冬舎の創業者である。角川書店の編集者から、幻冬舎を設立し現在も幻冬舎の代表取締役社長だ。

本作は見城徹が755というトークアプリで語った内容が加筆されたものだ。755を見た当時双葉社の編集者だった箕輪厚介がオファーを出した。当時、見城は活字化に反対だったが、箕輪の熱意に動かされ出版された。

本書では、見城徹という人間がどのような思いで編集という仕事に向き合ってきたかが語られる。彼がなぜ熱狂し、どのように熱狂するのか。

これから就活しようとしている学生、仕事に悩んでいる人全てに読んでほしい作品だ。

たった一人の熱狂 (幻冬舎文庫)

たった一人の熱狂 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 見城徹
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 文庫
 

感想

たった一人の熱狂。この題名を見て思い出したのはフョードル・ドストエフスキー『悪霊』の副主人公・ピョートル・ヴェルホーヴェンスキーだ。ピョートルはまさしく「たった一人の熱狂」を演じた男だ。その馬鹿馬鹿しいとしか思えない熱狂が村中を飲み込んでいく。それはまるで悪霊が人々の心に伝染していくかのように。

僕はそんな題名に惹かれて本書を手にとった。社会人になって2年目の深夜のことだった。それはちょうど、ゴミのように消えていく時間をそれとは釣り合うはずもないお金に交換する生活に慣れてきた頃だった。

僕は寝るのを忘れて読んだ。そこに描かれていたのは一人の編集者の熱狂だ。なぜこの人はここまで仕事に熱狂できるだろうか。それは「全共闘革命で死ねなかった」からだと見城は言う。彼らに申し訳が立たないと。

では僕にいったい何があるだろうか。僕たちの時代に革命はない。戦争もない。バブルもない。あるのは高度に発展した資本主義社会だ。

しかし、どんな時代、どんな社会で生まれてもたった1つ変わらないことがある。

人は必ず、死ぬ。今この瞬間は、死から一番遠い。
『たった一人の熱狂』

これを心の底から理解した人間ほど強いものはいない。だから見城徹は熱狂するのだ。いや、熱狂しなければやってられないのだ。

死という恐怖を片時でも忘れようとして、熱狂したフリをしているのだ。

しかしそのフリは、見城自身に伝染する。フリだったものがいつの間にか熱狂に取って代わられる。熱狂は他人にも伝染する。その熱狂という名の病が石原慎太郎や村上龍、中上健次といった作家たちに伝染するのだ。 

暗闇の中でジャンプする
『たった一人の熱狂』

本書で繰り返し登場する言葉だ。

正解はわからない。眼の前は崖かもしれない。でももし熱狂しようと思うならジャンプするしかない。明るいところでジャンプしても熱狂はできない。

周りが見えすぎてしまうからだ。熱狂するには暗闇に向かって、不確定な未来に向かってジャンプするしかない。

僕たちは必ず死ぬ。ならばどうして、熱狂しないでいられるだろうか。

暗闇の中でジャンプする。この言葉はまるで悪霊のように僕の心の片隅に居座り続けている。