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【感想】落合陽一『デジタルネイチャー: 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』

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何かと話題の落合陽一の『デジタルネイチャー: 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』を読んだので、感想まとめてみました。

おすすめ度

おすすめ度:★★★★☆

テクノロジーによって今後どのように社会が変貌するかに興味のある人や、落合陽一ってどんなこと考えてるんだ、って人におすすめです。

物理や情報、哲学の基本的な用語を知らないと全く読めない可能性があります。その辺りに不安のある方は立ち読みしてみることをおすすめします。

作者・作品紹介

落合 陽一(おちあい よういち、1987年9月16日 - )は、日本の研究者、大学教員、博士(学際情報学)、メディアアーティスト、実業家。ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長、筑波大学 学長補佐・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 基盤長・図書館情報メディア系 准教授 デジタルネイチャー研究室主宰

落合陽一の肩書をWikipediaから引用しました。肩書ありすぎですね。でも一般的には、メディアアートの研究者と認識している人が多いと思います。個人的には、計算機科学の研究者と認識しています。

また、メディアに積極的に出て発言している研究者です。30歳という年齢を最近知って驚きました。30歳でこの実績は正直信じられないくらいです。分野によって違うのかもしれませんが、ありえないくらいのスピード感です。

落合はピクシーダストテクノロジーズ株式会社という会社を起業し、大学から給料をもらってないらしいです(確か)。この人、寝る時間ないんじゃないかと心配になります。

本作『デジタルネイチャー』は、落合が標榜するデジタルネイチャー(計算機が作る自然)とはなにか。デジタルネイチャーにより、我々はどのように近代を乗り越えていくのか、世界はどのように変化するかについて語られます。

感想

個人的に1番印象を受けたのが「オープンソースの思想」の展開についてです。

帝国とオープンソース

本書に出てくる重要な概念として「オープンソース」というものがあります。オープンソースとは、誰でも自由に使用することができるプログラムのことです。使ったことないと思っている人も必ず使っています。

この記事を読んでいるということは、私が書いたファイルを保存しているWebサーバにアクセスしています。そのWebサーバで使われているのは、Apache、もしくはNginxと呼ばれるオープンソースです。

落合はこのオープンソースによって、GoogleやAmazonといった巨大企業(落合は帝国*1と呼んでいる)の独占する市場に風穴を開けることができると主張します。1番わかりやすい例はWikipediaでしょうか(オープンソースとは違いますが、イメージ的には近いです)。

Wikipediaは全世界でもっとも参照されている百科事典です。Wikipediaは誰でも自由に編集でき、誰でも無料で参照することができます。そして、誰もお金をもらうことなく完全なる善意によって巨大な百科事典が作られているのです。一体誰がここまでのWikipediaの成功を予見できたでしょうか。

これがオープンソースの力です。ネット上には多くのプログラマが無料でプログラムを公開しています。ある特定の企業に属するプログラマが作成するのではなく、不特定人数のプログラマたちの善意で成り立っています。この非中央集権的な分散型のコミュニティがGoogleやAmazonといった巨大帝国を切り崩すと落合は予見します。

落合陽一と東浩紀

この議論で私が思い出したのは、東浩紀の『ゲンロン0 観光客の哲学』です。東は帝国に対抗する方法として、右翼でもなく左翼でもない連帯の方法として、「観光」を提唱します。

東はGoogleやAmazonといった帝国に集中するネットワークを分散させる方法として、その集中するネットワークの接続先をつなぎ替えることが重要だといいます。それを東は「観光」または「誤配」と呼んでいます。

ここに私は、落合の言うオープンソースの思想と東の誤配(観光)を結びつけたい。この2つは全く別の側面から、全く同じ課題へと取り組んでいます。東はコミュニケーションとして、落合陽一はテクノロジーとして、帝国に抵抗しようとしています。そして落合はより現実的にその課題への回答を提示してます。

もちろん、落合陽一の言う「オープンソースの思想」が帝国に吸収されてしまう可能性はあります。今の所、オープンソース的な意味で成功しつつあるのが仮想通貨です。本来、海外でお金を使おうと思うと換金する必要があります。

その際の手数料は国際的なメガバンクに吸収されてきました。しかし、仮想通貨であればそのような手数料は不要です。どの国でも誰でも自由に通貨を利用できるのです。

編集について

本書を読んでいて度々、読みにくいと感じたことがありました。話の展開が予測しずらく、何度か重複する内容が語られます。あまり構成が考えられてないような印象を受けました。落合の言葉がそのまま本になだれ込んでいるように感じます。

「おい、編集仕事してるのかよ」と最初のほうは思っていました。でも、この丁寧な表紙を作った編集者がそんな適当な仕事しないだろと思い直しました。

おそらくこの編集は意図的に行われたと考えられます。これは本書の重要な概念である「End to End」、言語を媒体にしない、直接的な体験を標榜したのではないでしょうか。本書を読むと、直接、落合の頭の中を覗き込んだような感覚にさせられるのです。

 

 

*1:ネグリ-ハートの「帝国」を意識した言い回しと考えられます