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竹本健治『ウルボロスの偽書』あらすじ・感想をまとめた

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竹本健治の『ウルボロスの偽書』を読んだので、あらすじ・感想をまとめました。竹本健治はすごく好きな作家です。本作はいかにも竹本健治らしいアンチミステリーの傑作です。

おすすめ度

おすすめ度:★★★★☆

個人的には星5ですが、アンチミステリー的な小説が苦手な人はおすすめしません。ちゃんとトリックがあって名探偵が解決する推理小説が好きな人は、辞めておいたほうが良いです。アンチミステリーってなんぞ? という人は試しに読んでみてください。度肝を抜かれます。

作品・作家紹介

竹本健治といえば、『匣の中の失楽』で有名な推理小説作家です。日本にはいわゆる四大奇書と呼ばれるものがあります。『匣の中の失楽』は四大奇書の4番目の作品です。

竹本健治は一般にアンチミステリーの旗手として捉えられています。アンチミステリーとは、ミステリーというジャンルそのものを批評的に捉えたミステリー小説です。なんだか難しいですね。

まあ簡単に言ってしまえば、登場人物が「自分自身がミステリー小説の一部であること」に自覚的なミステリー小説といえるかもしれません。登場人物がミステリー小説という存在に気づいてしまっているんですね。

そのアンチミステリーの1つの到達点とされるのが竹本のデビュー作『匣の中の失楽』です。『匣の中の失楽』では殺人事件と並行して、登場人物の1人がその殺人事件(小説内の)を題材にして推理小説を書き始めます。読者は徐々に竹本健治の書いた小説を読んでいるのか、それとも小説の中の登場人物が書いている推理小説を読んでいるのかわからなくなってしまうという小説です。

その後、竹本は暫くの間、アンチミステリー的な小説は書いていませんでした。しかし20年弱の年月を経て発表されたのが、本作『ウルボロスの偽書』です。

『ウルボロスの偽書』は、正しく『匣の中の失楽』の後継的作品です。アップデートされた『匣の中の失楽』と言えるかもしれません。もし『匣の中の失楽』が未読であれば、『匣の中の失楽』から読んでみても良いでしょう。

本作は間違いなく竹本健治の傑作、アンチミステリーの傑作と言えます。

あらすじ

本作の主人公は竹本健治、その人です。登場人物も綾辻行人島田荘司といった実在のミステリー作家や評論家です。当たり前のように小説内の竹本健治は、ミステリー小説を書いています。(このあたり、あらすじを書いていても混乱しますww)

ここからかなり複雑です。小説内の竹本健治が書いている小説では、2つのストーリーが展開されます。1つは遊郭で起こるコメディ殺人事件簿です。

もう1つは少し複雑な物語です。竹本健治の隣に住んでいる殺人鬼が竹本健治の家に忍びます。その殺人鬼は、竹本健治が書いている小説の原稿に自分が犯した殺人について記しすというストーリーです。

2つ目のストーリーの殺人事件は、全くそのとおりに現実に起こります。さらに、竹本健治は2つ目のストーリーを書いた記憶がありません。

本作は物語が進むに連れて、3つのストーリーは徐々に混ざり合ってきます。殺人事件は本当に起こっているのか、起こってないのか。殺人鬼は存在するのかしないのか。遊郭の女郎たちは存在するのかしないのか。

現実と虚構の境界が曖昧なまま、物語は衝撃の結末を迎えます。それはまるでウルボロスのように。自己言及のパラドックスのように。犯人が指摘された瞬間にミステリー小説は脆くも崩れ去ります。

感想

いやあ、もうページを捲る手が止まらないこと!『匣の中の失楽』ファンの僕としては興奮しっぱなしでした。こうきたか!と思いました。竹本健治が書いている小説の原稿に殺人鬼が自分の経験を書いているという構成です。「殺人鬼が小説を代わりに書いてくれたらいいのに」という作家自身の欲望が溢れ出てますね。

まず、いろいろ混乱しそうなので整理したいと思います。まず『ウルボロスの偽書』を読んでいる僕たちの世界を「僕たちの現実」と呼びましょう。『ウルボロスの偽書』内の現実、竹本夫妻や綾辻行人が出てくる世界を「小説の中の現実」と呼びましょう。そして、「小説の中の現実」で竹本健治が書いている小説を「小説の中の小説」と呼ぶことにしましょう。

竹本は「小説の中の現実」で実名の作家や評論家を登場させています。この複雑な構造は僕たちにある種の錯覚を与えます。「小説の中の現実」をあたかも「僕たちの現実」のように錯覚してしまいます。その原因は2つあります。

1つは「小説の中の小説」があることです。僕たちは「小説の中に小説」がある構造に慣れていません。それゆえに「小説の中の現実」の登場人物と同一化して、「小説の中の小説」を読んでしまいます。もう1つは「小説の中の現実」で実際に存在する小説家、評論家を登場させている点です。これによって、さらに読者は登場人物とともに小説を読んでいるような気持ちになるのです。

そしてラストでいきなり、僕が読んでた小説は「僕たちの現実」の竹本健治が書いていたのだと思い知らされます。普通に読み進めると、「小説の中の現実」の竹本健治が死んだはずなのにどうして小説が続くんだ? となってしまいます。でも小説を書いているのは「僕たちの現実」の竹本健治です。

ミステリーが終わった瞬間にミステリーが始まってしまうような、そんな感覚にとらわれる作品です。