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原田マハ『楽園のカンヴァス』あらすじ・感想

 楽園のカンヴァス (新潮文庫)

原田マハの『楽園のカンヴァス』を読んだので、あらすじ・感想を書きました。初めて読みましたが、期待以上に面白かったです。

オススメ度

オススメ度:★★★★☆

美術や西洋絵画に興味があるという人には是非読んでもらいたい作品です。ただ、恋愛小説を期待している人はやめたほうがよいです。また、元々美術に詳しい人は、なんか納得のいかない描写とかがあるかも知れません。それでも、素晴らしい小説なのでぜひ読んでみてください。 

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

  • 作者: 原田マハ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/06/27
  • メディア: 文庫
 

作者・作品紹介

原田マハの経歴はかなり異色です。伊藤忠商事からニューヨーク現代美術館を経てキュレーターとなり、現在は小説家でもあります。とても面白そうな人ですよね。

キュレーターという職業をご存知でしょうか。美術に関心のある人ならご存知かもしれませんが、一般的にはあまり知られていません。キュレーターとは、美術館の展示や企画展の運営・管理・企画をしている人のことを言います。イメージ的には美術館のプロデューサーみたいな感じと考えるとわかりやすいかもしれません。

そんな原田が小説の題材として選ぶのはもちろん絵画や画家です。最近では日本で行われたゴッホの企画展とコラボレーションしていたような気がします。

こんなことを書くと美術に詳しくないからと嫌厭するかもしれません。でも、美術にあまり詳しくない人にオススメできる小説が多いです(かく言う僕も美術に関しては素人です)。

本作の題材となるのは、19世紀から20世紀を生きたフランスの画家アンリ・ルソーの『夢』です。アンリ・ルソーは税関職員から40代で退職し、突然画家になった人物です。生前はピカソなど一部の画家を除いては、ほとんど評価されませんでした。今では、彼の死後花開くこととなるキュービズムシュールレアリズム運動の先駆けと言われています。

本作はアンリ・ルソーとパブロ・ピカソという2人の画家の情熱をミステリーを織り交ぜながら描きます。

あらすじ

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アンリ・ルソー『夢』

 本作の主人公・早川織絵は、倉敷にある美術館で一介の監視員として働いています。そんなある日、彼女は館長に呼び出されます。ニューヨーク現代美術館のチーフ・キュレーター、ティム・ブラウンが「ぜひ君に会いたい」と言っていると館長は語ります。

織絵はかつてフランス美術、特にアンリ・ルソーの研究者として名を馳せていたことが明らかになります。ここから物語は、若きティム・ブラウンと早川織絵の出会いまで遡ります。

2人は、かたや気鋭の女性研究者として、かたやニューヨーク現代美術館のアシスタントとして、とある美術コレクターの豪邸で出会います。そこで彼らが目にしたのは、ニューヨーク現代美術館にあるはずのアンリ・ルソーの『夢』に酷似した絵画『夢を見た』でした。

その屋敷で彼らはアンリ・ルソーを主人公にした物語を読むことになります。ルソーと『夢』に描かれた謎の女性、そして若かりしパブロ・ピカソとの友情が描かれます。真の芸術とはなにか。美術史にとって激動の時代に生まれた画家たちの生き様が垣間見えます。

織絵とティムは、物語を読み進めながら、『夢を見た』の秘密に迫っていきます。『夢を見た』は本物なのか偽物なのか。はたまたニューヨーク現代美術館にある『夢』が偽物なのか...

感想

本作は『夢』に描かれたあの裸の女性は一体誰だろう、という作者の妄想から始まったのだと思います。そして作者はふと「この絵の背後にこんな物語があったら」と想像したのではないでしょうか。

本作の読みどころは作中に出てくるルソーの物語でしょう。むしろ原田はこの物語を読ませたくて本作を書いたはずです。ティムと織絵の恋愛模様とかはどうでもよいといった書きっぷりです(それを期待して読んでいた人はどんまいです)。甘ったるい恋愛の描写は期待したほうが間違いというところかもしれません。

それとは別に、織絵の現在の状況についての描写が少し薄いなと感じました。織絵たち家族のその後のあり方をもう少し描いても良かったのではと思います。描かないのであれば、途中の家族の描写は蛇足だったような印象を受けました。そこがオススメ度が星4個の理由です。

芸術とは常に古いものを否定し、新しいもの創らなければなりません。それは結局のところ、発表したときには評価されないということです。評価されるのは、それが既に既存の芸術だからです。真に新しい芸術は必ずと言っていいほど、多くの批判に晒されます。特にこの時代のセザンヌやゴッホという画家たちは批判を正面から受けた画家です。

そして残念ながら生きて作品が評価される画家はほんの一握りです。多くの画家は死後評価されることになります。そしてそんな一握りの画家としてパブロ・ピカソは描かれ、多くの画家の1人としてアンリ・ルソーは描かれます。

原田はとにかくピカソをカッコよく描きます。作者はどちらかと言うとピカソについての小説を書きたかったけど自重したような印象を受けます。ピカソの言葉一つ一つに「既存の芸術を壊し、新しい芸術を造る」という若き芸術家の信念を感じます。

「そんなふうだから、 あんたはなかなか認められないんだ。いいか、アンリ。おれたちの時代の芸術は、そんな生ぬるいもんじゃない。他人の絵なんざ、蹴散らすためにあるのさ。既成の価値観なんて、くそくらえだ」

原田 マハ. 楽園のカンヴァス(新潮文庫)

おそらく二人の生きた時代が逆であればアンリ・ルソーとパブロ・ピカソの境遇は逆になっていたはずです。本作はピカソとルソーを対比させながら、生まれた時代や境遇という残酷なまでに運に左右される芸術家たちの悲劇的かつ情熱的な生き様を見事に描いた傑作と言えるでしょう。

後に原田はパブロ・ピカソの『ゲルニカ』を題材にした小説『暗幕のゲルニカ』を書いています。ぜひ読んでみて下さい。

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