マルクス『資本論』をわかりやすく解説

マルクス経済学を簡単に解説しました。マルクスって有名だけどどんなこと主張したの?どうして格差は広がるの?という人に向けて書いています。共産主義革命は終わりましたが、マルクスの経済学は現代の資本主義の根幹をしっかりと照らしています。

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貨幣とは

マルクス経済学を理解する上で大事な概念が「貨幣」です。貨幣が誕生する前は人々は互いに物々交換をしていました。お米1kgと人参1本の交換という感じですね。ここでマルクスが注目するのが「値札付け」と呼ばれるものです。

お金がない時代のフリーマーケットを想像して見てください。例えばあなたは、着物を売っているとしましょう。お金がないので、あなたは着物の値札に「牛1頭」と書いたとしましょう。お客さんは、その気になれば牛と着物を交換することができます。この状態を牛は着物に対する「直接的交換可能性」があると言います。逆に着物は牛に対して直接的交換可能性はありません。なぜなら、着物と牛を交換する権利は牛を持っているお客さん側にあるからです。

それでは、貨幣はどうでしょうか。現代において、貨幣はあるゆるモノに対して「直接的交換可能性」を持っています。お金で買えないモノはほとんどありませんよね。これが貨幣に特別な力をもたらしています。

この全てのものと直接的交換可能性のある貨幣が誕生すると物々交換のときにはなかったことが起こります。生産と購買の分離です。物々交換の時代では生産物と購買品が直接交換されるので、生産と購買が直接結びついています。資本主義では生産物は一旦お金に還元されます。そして別のところでお金でモノを購入します。このように生産と購買が分離しているので、お金を貯蓄するということができるようになります。売った分より、少ないモノを購入すればいいんですね。

物々交換の時代では、着物をたくさん作って貯めて置くということはしません。着る着物の数は限られていますし、着ない着物をたくさん持っているよりは、他のモノと交換して置いたほうが得です。しかし、お金は違います。なぜなら貨幣はすべてのものと直接的交換可能性があるからです。お金は使わなくても交換可能性がある限り、いくら貯めておいても良いからです。

お金は人間の欲望のあり方を変えてしまったとマルクスは主張します。モノを使用することの欲望からお金を所有する欲望へと変遷してしまうのです。

イデオロギーの変遷

さらに資本主義が進むと貨幣によって人間のイデオロギーまで変化することを余儀なくされるとマルクスは言います。例えば、自由や平等という概念があります。資本主義社会では自由という概念は「市場における自由、平等」と置き換えられます。

我々はお金があれば、誰でも平等に自由に好きなものを買ったり、好きな労働契約をしたりすることができます、。これが自由、平等であると考えるようになります。そうなると、自由に職を選べるはずなのにブラック企業に勤めているのはソイツのせいだという主張がまかり通ることになります。また、みんな平等なのに生活保護を受けるのはオカシイと主張することになります。

実際には自由や平等はもっと根本的で本質的な概念です。市場の自由は資本主義と言うイデオロギーの中で定義された自由でしかないのです。

資本とは

いよいよ資本について解説します。

労働によってお金を稼ぐことを考えてみましょう。あるサラリーマンが会社で働いて、1ヶ月例えば30万円もらえるとしましょう。サラリーマンが貯蓄するためには、1ヶ月の支出を30万円より少なくすれば良いということになります。つまり、お金を貯めようと思うと、給与をもらい、節約して支出を減らし、その差分が自分のお金となります。

さて、もう1つお金を貯める方法があります。それは100円で商品を買って、200円で商品を転売する方法です。この方法は労働によってお金を貯めることと根本的に異なる点があります。それはお金を使ってお金を稼いでいる点です。労働はお金を使わないこと(節約)でお金を貯めます。転売する方法ではお金を使ってお金を稼いでいるのです。このように稼いだお金のことをマルクスは資本と呼び、そのように稼ぐ人のことを資本家と呼びます。

ここで、資本家が商品として買っているのが労働力です。資本家はまず労働力を買います。その労働によって生み出されたモノを買い取った労働力以上のお金で売ることによって資本を増やします。

労働者と資本家の大きな違いは2つあります。

1つ目の違いは生産資源があるかどうかです。生産資源とは、商品を作るために必要な材料を持っているということです。一方、労働者は生産資源をもっていません。もちろんお金それ自体も生産資源の一部と言えるでしょう。持っていなからこそ唯一もっている商品である労働力を売っているのです。

2つ目はお金の稼ぎ方にあります。労働者がお金を貯めるにには限界があります。なぜなら、節約することでしかお金を貯める事ができないからです。資本家はいくらでもお金を増やすことができます。お金を使ってさらにお金を増やすことは際限なく行うことができるからです。これが、資本主義社会で格差が広がる原因です。生産資源を持つものが際限なくお金を増やすことができます。

生産力と恐慌

資本家はより多くの製品を効率的に作るために生産力を向上させようとします。そのため新しい生産資源を投入します。例えば、新型のパソコンとかAIとかですね。そうするとここでも不思議な逆転現象が起こります。

生産手段のはずのパソコンやAIといった機械に労働者が逆に使われるようになるのです。今やすでにそうなっていますが、機械が労働者に合わせるのではなく労働者が機械に合わせるようになるのです。

パソコンや、Excel、Gitなどのツールをわざわざ勉強したり、使い方がわからんと言って仕事をしたりしていませんか。1番わかりやすいのは、工場や機械の管理業務をしている人でしょうか。完全に手段と目的が逆転しています。

この生産力の向上がさらに進むと生産過多が起こります。生産性が向上しすぎた結果、製品が多くなりすぎて製品の価格が落ちてきます。さらに労働者を雇う必要性がなくなるので、失業者が増えることになります。

これが恐慌が起こる原因です。恐慌は生産力が向上しすぎた結果起こります。そして新しい技術革新が起こることで再び新しい産業が起こります。そして技術革新により起こった産業が洗練され生産力が向上すると再び恐慌に襲われることになります。これが資本主義のサイクルだとマルクスは主張します。

資本家と労働者

次に資本家と労働者の関係を見てみましょう。資本主義が進むと労働者は必然的に資本家に依存せざるを得なくなります。仕事を辞めたくても辞めづらい状況に追い込まれてしまうのです。

それは資本家が持っている生産手段のためです。例えば、ブラックIT会社で働くSEを考えてみましょう。SEは会社の生産資源を使って働いています。会社の資源としては、作業をするPCや納入するサーバを買う資金だったり、大きなプロジェクトを成功させる人的資源だったりします。

そうすると彼らはPCがなければ、一緒に働く同僚がいなければ仕事をできなくなってしまいます。その社内の開発プロセスにあった作り方でしか生産できなくなってしまうのです。PCという資源や多くの労働資源をもっている資本家に頼らざるを得なくなってしますのです。

これが労働者が悪条件の中でもブラック企業をやめることのできなくなる理由です。そして働けば働くほど資本家と労働者の格差は広がっていきます。

共産主義革命

マルクスは歴史の流れの必然として共産主義革命が起こるはずだと主張します。生産力を極限まで高めた結果、人々は職を失います。AIが人間の仕事をどんどん奪っていくことを想像するとわかりやすいですね。

そうすると、資本家と労働者の格差はさらに拡大していきます。少数の資本家に大量の資金があり、大多数の労働者が僅かな賃金で生計を立てることになります。その結果、人々は共産主義革命を起こさざるを得ないのです。

時代の流れ

マルクスが資本論を書いたのは19世紀です。そこから時代は驚くほど変化しています。おそらくマルクスはインターネットという存在を想像することさえなかったでしょう。このインターネットはまさしく共産主義革命に代わる革命と言えます。

なぜなら、たとえ生産資源がないとしても誰でも資本家になれる世界だからです。ブロガーやyoutuber、webサービスであれば生産手段がなくてとも起業し、資本家になることができます。

インターネットこそマルクス経済学を乗り越える鍵となる革命です。しかし、このインターネットでさえも資本主義の波に飲み込まれようとしているのが現状です。インターネットはもはやFacebookやAmazon、Googleといった超巨大企業によって運営されているからです。

この現状をどのように超えていくか、それが資本主義のこれからの課題です。そのとき、マルクス経済学は大いなる知恵を授けてくれると思います。