【解説】村上春樹『鏡』

村上春樹の短編小説『鏡』を解説します。高校の教科書に載っているとのことで記事にしました。現代文の授業とは一味違った読み方を提示したいと思います。小説はいろいろな読み方があるのだなあと知ってもらえればと思います。

カンガルー日和 (講談社文庫)

著者・作品紹介

村上春樹はおそらく日本で最も有名な作家でしょう。そして、世界で最も知られた日本人作家です。彼の作品の特徴は難解なメタファーと独特のリズム感です。よく翻訳調だとか言われています。しかし、その読みやすい文体は純文学というジャンルを超えて多くの読者の支持を得ています。

本作『鏡』は『カンガルー日和』という短編集の中に収録されています。興味のある方はぜひそちらも買ってみてはいかがでしょうか。

解説

さて、この小説を読んだとき誰もが感じるのは「どうして鏡の中の僕は僕のことを憎んでいるのか?」ということでしょう。この小説を考えようと思うとそこから始めるのが非常に簡単で、わかりやすいですね。授業でもそのような感じで進められるのではないかと思います。

まあ、その答えはいろいろでして、自分で考えたりするのが楽しいと思います。正解なんてものはありませんので。今回はもっと別の切り口で考えてみたいと思います。

村上はなぜこの小説を書いたのか

この小説で主人公が語る話の構成を見ると、非常にお手本通りという感じがします。いわゆる起承転結です。そして、扉が空いたり閉まったりする音や風の描写なんて怪談話の典型です。稲川淳二が話しているみたいです。小説のプロットを勉強するには非常に良い教材です。

そこで一つ疑問が湧きます。村上はどうしてこんな小説を書いたのだろうという点です。もう少し踏み込むとなぜこの小説を書くに至ったのかということです。本作は村上にしてはあまりに典型的で、少し面白みにかけます。

面白いのは最後のオチくらいです。そこで僕は発想を逆転したいと思います。いやむしろ、最後のオチを書きたくてこの小説を構想したのではないか。村上は「主人公が鏡なしで髭を剃ることができるようになるためには、どのような過去が必要なのか」を後から考えたのではないか。

ある日、村上は鏡無しで髭を剃るハメになった。実際に剃ってみると、かなり難しいことがわかる。そこでこう考えたのではないか。「もし、鏡無しで髭を剃れる人がいたとしよう。その人は一体どういうわけでそのような特技を身につけるにいたったのか。なぜ鏡を使わずに髭を剃るようになったのか」と。

そんな夢想から、この小説は生まれたのではないではないか。いかにも村上らしい構想です。こんなふうに想像すると少しこの小説が面白く感じてこないでしょうか。